0人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、また同じ結果を辿り今に至る。左耳の奥、鼓膜の辺りで意地悪な『左耳悪魔』が「取っちゃえよ」と囁く。睡魔と戦う中で私は看護師にその旨を打ち明けると、このような助言を頂いた。
「睡眠不足は身体にもお腹の赤ちゃんにも毒だけど、どうしても眠りたくないと言うのなら一日にコップ二杯までならコーヒーを摂取することを認めましょう。但し、それ以上は駄目よ」
いくらカフェインを取り込んだところで睡魔が消えて無くなるわけではない。そして、一度でも自制の箍を外してしまえば? カフェインに依存してしまう結果を恐れて、私は未だに一杯も摂取せずにいた。だから、誰しもが飼っている小さな悪魔が誘惑の詩を耳元で詠い続けるのだ。人は皆、二面性を持っている。“陽”を自己と定義すれば、“陰”は『左耳悪魔』だ。幼少期、熱を拗らせた私を介抱する慈悲なる心を持つ夫は、同時に蟻の巣穴に小便を流し込む残虐性もまた持ち合わせていた。そう、『左耳悪魔』は人なれば至極当然の存在だ。
最初のコメントを投稿しよう!