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 どんよりとした白──それは不機嫌一歩手前の曇り空の様で。どんなに醜くとも、どんなにきらびやかであろうとも、受取手の気分次第で世界は薔薇色にだって見える。いや、虹色? それとも金色だろうか。何にせよ、私の心の状態ではこの白濁とした一天にとてもじゃない、美しさを見出せやしないのだ。  これは“例えば”の話、私は広い広い森に住む神様だ。ここに住む坊やたちはこの森の深さをこの森の広さを知る由もなく、樹海と言うも飽き足らずさながら翠の大海原とでも形容すれば、森こそが世界の全て、世界こそが森の全てと言えよう。森の羅列によって形成されるこの世界の主である私は過去と未来、無限の理、すなわち森羅万象を知り得る。『識るは力か? 否、識るは己を守る盾だ、運命を切り裂く刃だ』遥か昔、一つの朽ち果てた森に佇む老樹の長老に聞かされた最後の言葉を思い出す。この力を活かすだけの力量がなければただ識るだけの役立たずでしかないと、静かな声でそう忠告を受けたのだ。風の音より遥かに脆いひゅーひゅーという喘息を最後に、老樹の長老はこの森を去っていった。
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