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五年前の文化祭。
あの日からすべてが変わった。
内気で根暗な私は、好きだった彼を遠くから眺めるだけの日々を過ごしてい
た。
窓越しの校庭に見える彼は、真剣な眼差しでボールを追いかけていた。
聞くところによると、彼はプロのサッカーチームのユースに入っていて、レギ
ュラーで、十番だと言う。私にはサッカーのことなんて全然わからないけど、
彼が他の人たちよりも上手だということだけは見ていてわかった。
彼は身長、百七十九センチ。私よりも三十センチ以上高い。サラサラの髪は少
し赤みがあって、よく先生に染めているのかと聞かれているけど、地毛だとい
う。
家も逆方向で、クラスも違うし、共通の友達もいない。
まるで接点がない彼と私が話をすることなんて、この学校生活で起こりえな
い。
文化祭では、うちのクラスは模擬店をやることになった。
テーマは喫茶店で、私は五人いるウェイトレスの一人になった。
はっきり言って、私は根暗で口数も少なく、そうたいしてかわいくもない。
そんな私が裏方でなく、ウェイトレスに選ばれたのは、他の子たちの引き立て
役だったのだと思う。
うちのクラスには、かわいい子が多くて、中でも演劇部の江村さんと陸上部の
藤田さんが双璧を為していた。二人も当然ウェイトレスだった。芸能人並の容
姿を持つ二人に比べてしまうと残りの二人が霞んでしまう。そこで私……とい
うわけだ。
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