文化祭

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 当日。 江村、藤田コンビの人気や、客寄せ担当たちの頑張りもあって、店は大盛況 だった。 あらかじめ決めてあった男子が来た時は、チラチラと目配せをして、担当者が 注文を取りに行く。 それぞれ別担当の対象が一緒に来店してしまった場合は、注文を取るのと商品 を運ぶのとで分け合うことになった。 「へぇ、本格的だな」  聞き覚えのある声。 胸がギュッとなった。 彼が来店したのだ。 「いらっしゃいませ!」  明るい声で江村さんが迎える。 ちらっとこちらに目配せした。 私は慌てて、入り口に向かい、彼と友人二人を席へ案内する。 「あ、あの……これ、メニューです……」 「おう、サンキュー」  私の手から彼がメニューを受け取る。 感じるはずのない手のぬくもりを感じた気がして、クラクラした。 彼が私の目を見て話している。 それだけで夢のようだった。 「……じゃ、それでお願いします」 「あっ!」  ぼーっとしすぎていて、注文を聞いていなかった。 恥ずかしさに顔を真っ赤にして、注文票をポケットから取り出す。 「あ、あの……もう一度……お願いします」  そんな私に、彼は小さく笑った。 「はい、はいって聞いてたじゃん。ははは、君、おもしろいね!」  言いながら、ゆっくりとメニューを指さす。 「サンドイッチが三つ、ジンジャーエール、コーラ、それと紅茶のホットね。 今度はオッケー?」 「はっ、はい!サンドイッチが三つ、ジンジャーエールとコーラと紅茶のホッ トですね!」 「そうそう。よろしく」 「し、しばらくお待ちくださひっ」  私は声をうわずらせながら、ぺこりと頭を下げて逃げるようにバックヤード へ戻った。 「緊張してるなー、あの子」 「おもしれー」  そんな声に泣きそうになったが、一番泣きそうだったのは、次の彼の言葉 だった。 「俺、ああいう子が好きだな」  その後の友人たちの言葉は、もはや私には聞こえなかった。
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