第4話

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船に乗って早3週間が過ぎた。 ユールヒェンはもう既にある程度船に馴染み、気軽に話せる者も増えた。 毎日の手伝いにもルーティンが出来、村で強制されていた時より断然楽しいと思えた。 かつては手足はやせ細り、頬は削ぎ落としたように痩け、肋骨が浮き、腹は凹んで骨ばった尻をしていた身体は適度な脂肪と筋力をつけ始め、脚は辛うじて〔太もも〕と呼べる程膨らみ、ふくらはぎがハリを持ち始めた。 長く細い腕は細いながらもメリハリがあり、つついたら折れてしまいそうな腹はむにむにと指を弾くくらいには柔らかくなった。肋骨は肉に隠れ、頬はふっくらとしてきて、表情もどこか柔らかくなった。端的に言えば綺麗になった。哀れな骨ばった身体は女性らしい丸みを持とうとしている。 となれば体力もつくわけで、そうなれば行動範囲や出来ることも増えるわけで。 厨房での手伝いを終え、味見に、とお椀に軽く盛って貰ったものを食べた後、ユールヒェンは手を洗って大広間の階段を駆け上がった。 手前から扉をノックして、返事が無いようなら預かっている合鍵で開ける。 「おはようございます、朝ごはん出来ました」 そう、船員を起こしに行くのだ。 口に手をあてがってメガホンのようにし、精一杯の大きな声で呼びかける。起きない者はそばに行って揺さぶり起こす。 これが特に男性乗組員に非常に人気がいい。 当然だろう。各々が自身の仕事をこなし、時には呪いや悪魔に関わって闘いや殺害をしなくてはならない。そんな疲弊した身体は気持ちの良い睡眠を求める。そして充分な睡眠をとった後、優しく肩を揺さぶられ目を覚ますと、一見キツめに見えるも儚げな美少女が一番最初に見える。誰だってこれは嬉しい。 私もユールヒェンみたいな美少女に優しく起こされたい。 ウバルーノやアーサーの起こし方は非常に雑で乱暴だ。金属を叩いたり擦ったりして嫌な音を出す、大声をあげる、しまいには引っぱたかれる。 これが非常に目覚めの悪いものとなる。 まだ2人は優しいくらいで、律なんかは「あと5秒で起きないと隠している春画を燃やす」だの「3つ数える間に起きないなら秘密を書いた紙を掲示板に貼り付ける」だの、笑い事では済まない脅しをかけてくる。 これではたまったものではない。 さすがに女性乗組員にこんな手荒な起こし方はしないにしても、ユールヒェンの起こし方は「小さい子がお腹を空かせて起こしに来るみたいで可愛い」と好評だ。 乗組員総勢27人名。28人目となるユールヒェンは周りに受け入れられつつあり、ユールヒェンも少しずつ絆されていった。
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