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「アーサーがね、口癖のように言うんだ。呪われた人たちを、せめて苦しまないように一撃で殺せって」
呪われたくて呪われた訳では無い。呪いさえなければ、そこいらにいる人と同じ未来と幸せがあった人なのだから、とアーサーは毎回のように語るのだという。それは船員全員が肝に銘じていることで、傀儡は別としても、呪われた人は必ず一撃で、即死できるようにしてやるのだと言う。
目の前に立つアレンの髪がキラキラと光る。
それが眩しく思えて、思わず目を瞑った。
「…にしても、本当によかった。後遺症も傷跡も無いんでしょ?」
「うん。…本当にありがとう、アレン」
「何度もいいのに…。それに治したのは俺じゃないよ」
「それでも。…ミグリアもそうだけれど、アレンは私なんかの為に、飛び込んできてくれた…。どうして?」
「決まってるじゃん、守りたかったからだよ」
アレンにとっては、きっとその言葉は普通で、何の変哲もない、ただ守りたい。その気持ちがあるだけのものだ。
だが、ユールヒェンは違う。
守りたいから、守る。それを自分にしてくれる事は、今でも泣きそうな程嬉しい事なのだ。
人扱いされる事が、最低限の人権を守られるこの場所は、いつしかユールヒェンにとってとても大切なものになっていた。
『アレンは、格好いい。強くて、凄くて。まるで、小説に出てくる…』
「気になる?」
ぼうっと視線を落とした先には拳銃があった。アレンはユールヒェンが拳銃を気にして見ているのだと思って声をかける。そこでユールヒェンははっと気付いた。
先程まで自主練をしていたアレン。ユールヒェンが入ってきたことでその手を止めたのだ。もしかしたら、邪魔をしてしまったのかもしれない。
慌ててアレンの顔を見上げた。
「ご、ごめんなさい、邪魔をして」
「全然邪魔なんかじゃないよ!凄いでしょ、色んな武器があるんだ」
アレンは奥の戸棚から、木刀やレプリカの銃なんかをガサガサと探し出した。その中から、短刀を持ってユールヒェンの元へ。
「ユールも、これから体術とか覚えていったらどうかな。なんなら俺が教えてあげるよ!」
「体術?」
「そう。敵を倒すまでは行かなくても、自分が怪我をしないように逃げる為に、護身術くらい身につけておいてもいいと思うんだ」
手渡されたナイフはゴム製で、切れない代わりにぐにょんぐにょん曲がる。当たっても柔らかいから怪我もしないだろう。
「今日は探検にいっておいでよ。俺は基本的に昼ご飯食べたらここに来るから、気が向いたらおいで」
「…ありがとう」
そのままアレンにナイフを返して、ぺこりと一礼。踵を返して帰ろうとしたユールヒェンを、アレンは呼び止めた。
「ね、ねぇユール。その…1回だけ、フード被ってみてくれない?」
意図が読めずにきょとんとした顔で従ったユールヒェンにぴょこりと生えたうさぎの耳が可愛すぎて、アレンは鼻血を吹いた。
『アレンは…まるで、小説に出てくる、登場人物のようだ。困っている人を助けて、その人が笑顔になることに喜ぶ。
英雄のようだ』
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