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世界四大国家の一柱、スペイド国が統治する、グレート・ヴィリア島。
シャルル島より北西に位置する島国には、中央部にスペード型の城郭都市、スペイド国が構えており、その周りは小さな村々が存在していた。
そのうちの一つ、シャルル島に1番近く、グレート・ヴィリア島の入口の一角を担う村コロン。
経営する港では漁船から魚が入った木箱を数人がかりで下ろしていた。そこに、ひとりの男性がディクシー号の存在に気付く。すると男性は大きな声をはりあげて、あちこちに走り回って行った。漁船の荷解きをしていた者達も、自分の仕事もそこそこにディクシー号がスムーズに停泊出来るよう、邪魔な木箱を大慌てで片付け始めたのだ。
他の者も家から出てきて、片付けを手伝う。
木箱を抱えてあっちへ運べそっちへ持っていけ、網も横着に束ねてロープを引っ張って船を寄せ、ディクシー号が止まる場所を開ける。
港がすっきりと片付いた頃、ディクシー号がすぐそばに着いた。錨と階段を降ろすと、アーサーが真っ先に船から降りた。
そこに、慌てて駆け寄ってきた男が出迎えをしてくれる。
「お帰りなさい、アーサーさん」
「いつもすまないな。息災だったか」
簡単な挨拶と、少しの会話。それに聞き耳を立てていたユールヒェンは、その男性が村長なのだろうと考えた。
ユールヒェンの村にいたあの恰幅がよく下品な印象とは対称的に、スマートで品のある男性だ。少しして一人の女性が村長に追い付き、隣に並ぶ。恐らく奥方であろう。
ストレートロングの清楚な女性の腹は膨らんでおり、愛おしそうにその腹を摩っていた。
「実は、子供が出来たんです」
「そうか。おめでとう」
妻の肩を抱き笑う男性のなんて幸せなことか。
占い師、いや、悪魔さえ来なければ、自分の村の村長もああやって、幸せそうに、優しそうに笑っていたのだろうか。そんな考えがユールヒェンの頭に浮かぶ。
階段を降りてみると、その街は何処と無くあの村に似ていた。あまり豪華ではない家々、人数も少なく、漁業で村の生計を立てているらしい。
潮風がふわりとスカートを揺らし、白いレンガで出来た村は、人の笑い声と穏やかな雰囲気に包まれている。
悪魔や呪いとは一切関わりが無いのだろう。
嫌な気配もせず陽気で、太陽が眩しかった。
きゃいきゃいはしゃぐ子供達が我先にと船へ駆け寄ってくる。そして降りてくる乗組員に口々に言うのだ。
「すっげぇー!」「格好いい〜!」「私も乗りたーい!」「いつ見ても凄いなぁ〜!」
きらきらと瞳は輝き、両腕を大きく振ってまだ船内にいる者達を眺めた。気付いた数名が手を振り返したり、何らかのアクションをするのを見て子供たちは更に大はしゃぎ。
そんな光景を呆れながらも微笑ましく眺めていた村長は、ユールヒェンの存在に気が付いた。
面識の無い人だ。それなりに年頃だろうに手足は細く、華奢で儚げな少女は、見事な美しい銀の髪がよく似合っていた。
村を眺めている姿は可憐で、白い薄手のワンピースを着てまるで妖精のようだ。
「見ない顔の方だ、随分とお綺麗な…。もしかしてアーサーさんのお嫁さんですか?」
「何を言っているんだ…」
新たな陸地に胸を躍らせるユールヒェンに声をかけ、手招いてそばに寄らせる。
「ユールヒェン・ベルンシュタイン。新しい仲間だ。良くしてやってくれ」
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