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豪勢な小型の馬車に揺られながら、アーサー達は城へ。
「それでは、私は近くで待機しております。行ってらっしゃいませ」
望月に見送られ長い石段を登り、辿り着いたそこは。
鉄格子の門の左右には白い巨大な柱。精密な加工が施されており、美しく彫られている紋章は、この国の勲章の剣だ。まるでそのまま手に取り、敵を斬る事すら出来てしまいそうな程に鋭い。その傍には衛兵が佇み、アーサーと一言二言話した後、門を開けて3人を招き入れた。
キルガーロン邸の屋敷も非常に美しく優雅なものだったが、この王宮とは比べ物にならない。色鮮やかに咲き誇る花々が長いガーデンアーチを作り出し、抜けた先はまるで薔薇の農園。
赤い薔薇が道を織り成すように並び、そのどれもが立派な大きさを誇っている。雫を零しながらも太陽の光を受けたその真紅は、まるで炎のようにその場に佇んでいる。
奥に設置された噴水は、シャルル島にあったものよりもずっと豪勢で立派なものだ。美しい天女の像に頂点には金色の天使が優しく微笑みながら庭を眺めている。
完璧なまでに揃えられた芝生の長さ、所々に点在するガーデンアート。何よりも見蕩れるのは、その庭の中央に堂々と構えた城である。
左右対称に横に伸びた白い城は、形容する言葉が見つからない程に美しく見事だった。
等間隔に並べられた窓、施された金の差し色は加減が絶妙で下品な印象は無い。寧ろ、白が金を引き立て、また金が白を引き立てていていてシンプルだが華やかな印象を受ける。
城の出入口の傍には、七体の像が飾られていた。
『なんの像だろう…』
じっと眺めるユールヒェンの視線に気づいたらしい衛兵の1人が、ユールヒェンの傍に寄り添い掌で指し示す。
「こちらは嘗て世界をお守り下さいました英雄である賢者様を模した像でございます。左奥から火の賢者様、地の賢者様、風の賢者様。右側に移りまして氷の賢者様、水の賢者様、そして闇の賢者様。
正面にございますは、光の賢者様を模した像でございます」
聞けば、この国が出来た何百年も昔から作られたものらしい。質こそ古びており年季が入っているものの、それは非常に綺麗なまま保たれており、如何に念入りに手入れや整備をしているのかが良く分かった。
それ程までに、この国は賢者を崇拝しているのだろう。
まるでこの城を護る最後の門番のように、7人の賢者の像は穏やかにその場に佇んでいる。そうなれば、女王陛下がアーサーをいたく気に入っている、という話も頷けるものだ。
城内に入ると、天井から吊り下げられているのは絢爛豪華な金色のシャンデリア。金が映える赤い壁には巨大な肖像画が飾られており、ゴージャスなドレスを着て王座に座る妙齢の女性や、ピシッとシワの無いタキシードを着込む男性が描かれている。絵の古さから、歴代の王や王妃の肖像画のようだ。
カーペットはふかふかして、足が沈みこんでしまう程に柔らかい。カーペットの端に等間隔に並ぶ衛兵が、一斉に敬礼した。
「アーサー様、ようこそお越しくださいました!」
正面の大階段から、1人の執事が降りてきた。アーサーに深々と礼をして、どうやら女王陛下が待つ謁見の間まで案内をしてくれるようである。
その時、1人の衛兵の呟きが、ユールヒェンの耳に届いた。
「……………人殺しが」
それはとても、悪意に満ちた声だった。
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