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好きな子との心の距離に対して、アーサーが1歩先へ進んでいる事にアレンは下唇をぐっと噛んだ。
アレンのパーカーを着せ、頭からフードを被る。はみ出てしまう髪はピンで止めて、極力見えないように工夫を施した。
アーサー達は西側を重点的に捜索していたが、どうやら見つけることは出来なかったらしい。そこで、漸く落ち着きを取り戻したユールヒェンは呟いた。
「ごめんなさい、実は、あの雑踏の中に気配を少しだけ感じたの…」
「本当?でも俺の胸ぐらを掴んできた人からは何も感じなかったな…」
「私も、特定出来た訳じゃ無い」
何はともあれ、重要な手掛かりだ。もう一度あの場所に戻れば、何かしらの痕跡は残されているかもしれない。
未だにこの街には微かな気配が漂っている。あちこちをうろうろしているらしく、闇雲に気配を辿るのは難しいが、痕跡が見つかればそこからたどれる可能性はある。
「ねぇユール、これ貸してあげるよ」
アレンは自分の手首についていた、赤い飾りのついたブレスレットをユールヒェンの手首に付けた。随分古いものだが、キラキラとしていて綺麗だ。
「俺、小さい時は泣き虫だったんだ。これはお兄ちゃ…ノアがくれた、勇気の出るお守り。きっとご利益があるよ」
ユールヒェンを元気にしたいというアレンの素直で優しい気持ちに、漸くユールヒェンは強ばった肩を緩ませた。
「ありがとう、アレン」
この後アレンはユールヒェンの視界外で拳を振り上げ、律に冷たい目で見られた。
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