175人が本棚に入れています
本棚に追加
路地に微かに伸びる気配を辿って走っていると、4つの道に別れていた。
細い路地を抜けた先は商店街となっており、多くの観光客や地元民がそこで買い物を楽しんでいる。
左から雑貨、洋服、家具、食関係と屋台が並び、呼び込みの声や客のざわめきが響く。スペイド国の屋台通りと光景こそ似ているが、やはり大国と比べると若干質素ではあった。
しかしコロン村よりはずっと栄えている。
客船や漁船、貿易船が頻繁にやってくるからか、品物は豊富で、食材も新鮮なものばかりだった。大国は精密な検査を受けた物が並ぶが、直接受け取るここなら、きっといわく付きの面白い掘り出し物があるのだろう。
気配はあちこちをうろうろとしていて、とても辿ることは出来なさそうだった。
「ウロウロしてますね〜。どうしましょっか?」
「うわぁ、人混みとか最悪だね。いつ感染してもおかしくないってことじゃないか」
アーサーは周りをじっと見ると、ユールヒェンの手を取って近くの建物へ向かった。外階段を登り、上から商店街を一望できる橋へとユールヒェンを連れてくる。
「見えるか?」
「見える」
「ここから4人組探せそうか」
「……頑張ります」
ユールヒェンはじっと往来する人々を見た。同じようにアーサーも下を覗き込み、先程ユールヒェンが言っていた特徴に似ている人を探す。
そうして目を凝らしてみていると、商店街の中でぎゃぁぁ、と赤子の声が響いた。
反射的にそちらに振り返ってみると、1人の母親が泣き出した我が子をあやしている。おしめだろうか、それともミルクの時間だろうか。母親は困ったように、しかし何処か嬉しそうに笑いながら子を優しく揺さぶり、甘い声で語りかけ続けていた。周りはそれを微笑ましそうに眺め、母親を気遣って声をかけたり、おもちゃをやってくれる者もいた。
[お前に生きる場所など無い!][さっさと死になさい!][なぜこんな子が…][生まれて来なければ良かったのに]
『……いいなぁ…』
ユールヒェンが幼い頃から受けていたのはあんな優しくてシロップのように甘い愛ではなく、痛くて苦い暴力だ。わぁわぁ泣き叫べば、石や拳が飛んできた。
母親に抱かれ、ゆらゆらと揺れても尚わがままに泣き続ける赤子が羨ましくて、視線をそらそうとしたその時。
母親のすぐ近くから、呪いの気配が微かにした。慌ててそちらに向き直れば、先程から探している4人組だった。
最初のコメントを投稿しよう!