第4話

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4人組は随分と酔っているようで、ふらふらとした足取りで母親に近付いていった。赤子が暴れるあまり仰け反ってしまい、慌てて支えようとした弾みで母親はぐらりとふらつき、4人組にぶつかってしまった。 「…あの人、アレンがさっき庇った人…」 なんとも運の悪い母親である。酔っ払いに絡まれやすい体質なのか、それは先程酔っぱらいの男性にぶつかられ、喧嘩をふっかけられた母親であった。 泥酔した4人組は気持ちの良い気分を害され、更に赤子の鳴き声は酔いどれには耳障りなようで母親を怒鳴り散らした。母親は赤子を庇うように抱きしめるが、赤子はまだ泣き止まない。赤い服の男性が呂律の回らぬ舌で捲し立て、桃巾着を付けた女性が嫌そうに母親を睨み付ける。緑の帽子をかぶった男性は母親に掴みかかろうとし、黄色のストールを巻いた男性は今にも拳を振り上げそうだ。 周りの者が仲裁に入ろうとするが、4人の機嫌は直らない。 アーサーが橋から身を乗り出して飛び降り、その現場へと向かうと、酔っぱらいの勢いはより酷くなっていた。飛び降りてここまで駆けつけるのに数十秒程度であっただろうに、取り返しがつかないくらい4人組は暴れ、近くの店の商品の1部が壊れており、振り回す手に握られた割れた酒瓶にぶつかったのか、仲裁に入った者も数人負傷していた。 アーサーは一先ず酒瓶を振り回す男性の腕を掴んだ。そのまま腕を反対側に曲げようと引っ張り、指先の力が緩んだところで酒瓶を取り上げた。そのまま足を引っ掛けて転ばせる。それを見て腹が立ったのか、他の男性がアーサーに殴りかかってきたが、あっさりとかわしてあっという間にその場に制してしまった。 「アーサー、大丈夫?」 追いかけてきたユールヒェンが声をかける。その時にはもう酔っぱらいは鎮圧され、アーサーは怪我をした人の手当を行っていた。腰に下げたポシェットからガーゼを取り出し、出血する患部に優しく当てる。 先程酔っぱらいをあっさりいなした男とは思えぬ程優しいその手つきに、その場にいた全員が見惚れていた。 まるで聖母のようだ。 天が遣わした使いだ。 なんて美しい天使様なんだ。 その類まれなる美貌と優しい対応を讃える言葉があちこちの野次馬から飛び交う。
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