第3話

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アーサーの船、ディクシー号は[シック]というテーマに沿って美しく彩られている。 黒や焦茶という決して派手ではない、ともすれば地味な色合いの組み合わせで、赤い絨毯も果実のような鮮やかなものではなく、ワインレッドと呼ばれる大人しく落ち着いた雰囲気を漂わせる。 これがまた、船長アーサーや、幹部達にとても良く似合う色なのだ。 壁や床が壊れ、血があちこちにこびりついてしまったユールヒェンの部屋は船員数人で掃除と修理が行われることになった。 その間、アーサーはユールヒェンにシャルル島へ降りて生活必需品を揃えてくるよう指示。修理ついでに殺風景で何も無い部屋をリノベーションしてしまおうと言うのだ。あわあわしている間に怪我が治され、服を着替えさせられ、リンゴをモチーフにしたサークルバッグを持たされ、サイズが微妙に合わない靴を履いて今まさに上陸しようと階段の前に立たされた。 爽やかな白藍のワンピースは薄く小さな花柄が散りばめられており、銀の髪をしたユールヒェンによく似合っていた。サークルバッグの中身は妙に重たく、気が滅入る。 部屋を彩る為に自分好みの物や生活必需品を買ってこい、と言われても、買う為の金がユールヒェンには当然ながら無い。本とナイフと既に処分されてしまったズタボロの布切れを身に纏ってこの船に乗り込んだ。そもそも金など触った事すらない。 そんなユールヒェンを見兼ねて律が渡したのが、お小遣いだった。お小遣いとはいえ、生活必需品を揃えるプラス遊ぶ為の分で結構な額だ。部屋を与えられた時と同じくらい、いやそれ以上にユールヒェンは困惑して遠慮したがまたも強引に少し古い財布に入れてバッグに突っ込まれ、そのまま部屋を追い出された。 ちなみに部屋の修理のお手伝いも断られた。 生活必需品と言われても、何が必要でどういったのが良いのかなど分かる訳もなく、目の前に広がる未知の世界への不安も相まってなかなか1歩を踏み出そうと出来ない。 そんなユールヒェンの傍にミグリアがやってきた。 「ユールちゃん、お買い物一緒に行こう!」 「ミグリア…」 「何買ったらいいかとか分かんないよね。お金を沢山取っちゃう悪い人も居るし、心配だからついて行くよ」 「い、いいんですか?」 「勿論!ユールちゃんの好みだって知りたいし!」 太陽に負けない程の眩しい笑顔だ。そのまま、優しくユールヒェンの手を繋いでくれる。ユールヒェンと同じデザインの色違いのワンピースを着ながら、折角だからお揃いにしちゃった!なんて可愛く笑えばもうミグリアの言う通りに従う他無い。ミグリアが着いてきてくれるなら安心だ。ユールヒェンは階段をゆっくりと降りた。 島に上陸した瞬間、何となく、嫌な気配を感じた気がした。
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