第3話

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港からまっすぐ街の中に入り、5分程曲がらずに歩いたところ。淡黄蘗(うすきはだ)の壁紙に可愛らしいステンドグラスがはめられた扉のお店にミグリアはユールヒェンを連れて入った。 「このお店は私お気に入りなんだ。ユールちゃんが気に入ってくれるものがあるといいんだけど…」 中は可愛らしい鈴蘭がモチーフのシャンデリアに照らされ、アンティークな棚に帽子や鞄が飾られている。ショーウィンドウに可愛らしいワンピースが飾られており、解放された巨大なクローゼットの中にはフリルやレースが施された可愛らしいジャンルの服が並んでいる。 背の低い棚に置かれた衣服はジャンル毎に分かれているらしく、入って左側はふりふりの可愛らしい系統が、右側は少し大人びたクールな雰囲気の系統が飾られている。奥の店主がミグリアを見るなり、とても嬉しそうに会話をしている。 ユールヒェンはきょろきょろと見渡した。煌びやかで、こんなにも素敵なものは村でも見た事は無い。 クールな系統のエリアをゆっくりと見渡し、マネキンに飾られたワンピースを眺めた。 オープンショルダーの長袖のワンピースで、モノトーン調がシックで綺麗だ。スカートはプリーツになっており、薄らと施されたアーガイルが可愛らしい。腰に巻かれた白いリボンベルトが良く合っていた。 「ユールちゃん、そういうのが好み?」 「あ、あの、えっと。…好みって、良く、分からなくて。どう選んだらいいのか…」 うぅむ、としばし考えた後、ミグリアは近くの棚を漁り出した。少しして2着の種類が違うブラウスを取り出してユールヒェンに見せる。 「ユールちゃんって、何が好き?」 「えっと…本、です」 「本!だからしっかりさんなんだねぇ。本に出会うと嬉しくなっちゃう?わくわく、みたいな」 「はい、なります」 「じゃあ、この2着のブラウス、どっちの方が素敵な本に出会った時のワクワクに近い感じがする?」 ミグリアが見せて来たのは、フリフリのイチゴ柄の白いローカラーのブラウスと、黒色に灰色のレースが施されたダブルカラーのブラウス。ジャンルを絞っていく為に、一先ずこの店の大きなジャンルをどちらにするか決めようとしているのだ。 可愛らしいものにするか、大人びたデザインにするか。 ユールヒェンは少し考えたあと、黒い方を指刺した。 「…こっちの方が、ワクワクする、気がします…」 「ふむふむ~なるほどね。じゃあこっち側かな。右側を中心に見ていこうか!」 白い方を戻し、そのまま店内をうろつく。ミグリアが幾つか候補に挙げたものを先程のように聞いて、選んでいくものによってコーディネートを考え、試行錯誤していく。トップスを何枚か決めたら、それに対してどれと組みあわせても似合うボトムスを選んでいく。悩むユールヒェンを急かす事など一切せず、ユールヒェンが1番納得のいく物を手にすることが出来るまで、何度だって繰り返した。勿論ユールヒェン自らが手に取ったりしたものを優先し、その都度コーディネートを組み直していった。そうして幾つかの組み合わせパターンを完成させて、店員のもとに持っていく。 「あの、お金の使い方って…」 「大丈夫だよ、教えてあげる!」 ミグリアのサポートもあって無事に会計を終え、大きな買い物袋を受け取る。ずっしりと重いその中には、ユールヒェンが選んだ服。重たい衣服の山を持つ事など慣れていたのに、自分の好みの、自分だけの服を持つというのは、なんだかとってもワクワクして、新感覚だ。新たな本を手に入れた時に似ているけど、ちょっと違う。 『昔、村で綺麗なキラキラのワンピースを着ていた子を見て、凄く羨ましかった。 嬉しそうにはしゃいでいたけれど、あの子もこんな気持ちだったんだろうか』 ちなみにミグリアもちゃっかり自分の服も買い足しており、手早く会計を済ませ2人は店を出る。すると、ミグリアは突然周りをきょろきょろとした。 「ごめんユールちゃん、御手洗行きたい…。ここで待ってられるかな?」 「あ、はい。行ってらっしゃい」 「荷物、床に置いておいていいからね!」 邪魔にならない様に端により、ミグリアの荷物を受け取ってその背中を見送った。そのまま周りを観察してみる。
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