第3話

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本当に賑やかな街だ。こんなにも色んな人が歩いているのに、皆が楽しそうにしている。買い物袋を片手に腕を組んでデートをする老夫婦や、恋人へプレゼントしようとうんうん唸りながらショーウィンドウを覗き込む男性、産まれてくる赤子の使う揺籠をを触り心地を気にしながら吟味する妊婦、その妊婦の傍で意見をかわし合う夫。様々な理由で色んな買い物をしている姿は、まるでその人達の人生を覗いて見ているようで楽しかった。 今目の前を通った腕いっぱいの花束を抱えた男性が向かうのは、恋人の元かもしれない。もしかしたら亡くなった人が昔その花が好きで、供えようとしているのかもしれないし、誰かに対する祝いかもしれない。逆に、あの男性が貰う側で、今から飾る為の花瓶を探しているのでは無いだろうか。そんなことを考えているのはとても楽しくて、ユールヒェンの心はますます踊った。 『初めての街。初めての村や船以外の人。こんなにたくさんの人が、色んな目的を持ってそれぞれが動いている。不思議で、楽しい』 柔らかな風が髪を揺らして遊び、心地よい気候にすぅっと深呼吸する。砂埃の舞う村の地下室の匂いや、船内の木の匂いとはまた違った匂いだ。たくさんの人の香水が入り交じったような香りが微かにして、ざわざわと忙しない音を聴く。目を瞑って、聴覚に集中していると、ふとひとりの男性の声が聞こえた。 「ねぇねぇ、君、1人なの?」 目を開けて声のする方を見ると、3人の男性が立っていた。 はっきり言って、船の上でレベルの高い美人に囲まれている所為か、おそらくこの3人も男前の部類に入るのだろうが、ユールヒェンはあまり興味がなかった。話しかけられた意味もわからず黙っていると、男性達はユールヒェンを囲むように立ち、正面の男性はユールヒェンの顔の横の壁に手をついた。 緑色の瞳をしている。 『…この人より、もっと綺麗な瞳をした人を、私は知っている』 そんな事をぼうっと考えていると、男性はユールヒェンの顔をマジマジと覗き込んできた。 「…?」 「やべぇ、よく見たらめっちゃ美人じゃん〜。なぁ、俺らと楽しいことしない?」 「あの、すみません、人を待っているので…」 「うわやばっ声綺麗っつーか発音うま!」 「困ってる顔も可愛いね〜。その人って女の子?じゃ一緒に遊ぼうよ」 「買い物が…」 「俺たちが買ってあげるって!」 「大丈夫です。お小遣いを頂いているので」 「いーじゃん行こうよ!」 左側にいた男性が、ユールヒェンの左手首を強く掴んで引っ張った。過去が瞬時にフラッシュバックし、ユールヒェンは悲鳴をあげそうになる。それでもここが街中である事を考えてぐっと堪え、離して貰おうと左腕を引っ張る。 「や、やめて、お願い、離して…」 顔は真っ青になり、身体はガタガタと震える。すると、右側にいた男性はユールヒェンの腰に手を回してきた。そのままするりと尻を撫でようとする。思わず叫びそうになったユールヒェンの口元を、正面に立っていた男が塞いだ。 「なぁ〜いいじゃん、遊ぼうぜ」 「キモチイイコト教えてあげるって」 「泣いててもかーわいっ!ほらこっちこっち!」 視界は滲み、涙が溢れそうだ。みるみるうちに顔色は悪くなり、ひたすら首を振るも離して貰えない。引っ張られる腕は強く、握り締められた手首は力加減をわかっていないのかとても痛い。口を塞がれた手は恐怖そのものだ。その上腰を撫で回されているのだから、不快でしかない。
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