第3話

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筋力もまともにない華奢な少女が振り払える訳もなく、ぎゅっと目を強く瞑ったその時。 「おい。やめろ、手出しするな」 低く、ドスの効いた声の主がユールヒェンの腕を乱暴に引っ張るその手を握り締めた。ミシミシと音がして、男性は悲鳴をあげる。 「何すんだよ!」 アーサーだ。その美しい顔には影が落ち、無表情だが随分と怒っているように見える。ユールヒェンの腰を触っていた男性は、薄い尻から手を離し、嘲笑うような表情でアーサーの前に立った。 「今いーとこなんだから邪魔しないで貰えます?」 「離せ。その子に触るな」 美しい翠の瞳はぎらりと3人を睨みつける。口を塞いでいた男性が突然殴り掛かるも、あっさりとその腕を受け取り勢いを利用してひっくり返す。カエルのような声を上げて倒れた男性を見て、2人ははたと気づいたようだ。 「お、おい、お前まさか、アーサー・キルガーロンじゃ…」 「だったらなんだ」 その正体を知るやいなや、男性3人は悲鳴をあげながら走り去った。恐怖から足腰が震え、その場に崩れ落ちるユールヒェン。視線を合わせる為、アーサーは一緒にしゃがみ込んだ。 「大丈夫か」 「アーサー…さん…」 翠の瞳が真っ直ぐ見つめてくる。この瞳に光は宿っていないのに、その彩は本当に美しくて、ユールヒェンはうっとりと眺めた。 「ミグリアはどうした?」 先程の低い声とは違う、ユールヒェンを気遣った優しい声色に、ユールヒェンはほっと一息着いた。 「お、御手洗に…。あの、ごめんなさい」 「謝らなくていい」 アーサーに手を差し伸べられ、そっと指先を乗せる。すると、まるでお姫様でも扱うかのような丁寧な動きでユールヒェンを立たせた。失礼、と一言、スカートについた泥を手で払い落とす。 「すみません…」 「災難だったな。ああいうのは早めに大声を出した方がいい。そこら中に兵士がいるからな」 「はい…」 赤くなった手首が少し痛む。どうやら本当に強く握りしめていたらしく、爪の跡が残っていてそこから血が出ていた。華奢な女の子を扱うにしてはあまりにも乱暴だ。アーサーはユールヒェンの手首にそっと指先で触れ、魔力を発動した。 緑色の光が手首を優しく包み、傷がみるみるうちに修復される。数十秒程で、手首は元通り白くなった。 「これでいいだろう。痛みは?」 「大丈夫です。すみません、お手数をお掛けして…。あの、アーサーさんはどうしてここに」 「ちょっと…な。調べたい事があって」 そこで、ふと島を降りた時微かに嫌な感覚がしたことを思い出す。気の所為ではないかと最初はあまり考えないようにしていたが、思い出すと気になってしまって仕方が無い。 その事をアーサーに話そうとしたところ、向こう側からバタバタと何やら騒がしい走り方をしている男性が目に付いた。フォームは綺麗なのに。 「ちょっと待ってよアーサー!急に走り出してどうしたの」 「あ、アレンさん…」 アーサーを追いかけてきたアレンは、どうやらアーサーの陰に隠れユールヒェンが見えていなかったらしく、声に驚いてキラキラと目を輝かせた。 「え、名前覚えてくれてたの!?」 「え?は、はい…」 「そ、そっかぁ!嬉しいなぁ!」 その顔は何故か真っ赤になって、もじもじと俯く。余程急いで走ってきて体温が上がっているのだろうな、等と考えていると、ミグリアが戻ってきた。 「あれ、船長にアレンくん、どうしたの?」 「ちょっと調査にな。俺が気になっただけだから、お前らは買い物しておいてくれ。 どの道ものは揃えないとな」 手短に事情を説明すると、ミグリアはユールヒェンを1人にしたことに後悔する。怖い思いさせたね、なんて手を握ってくれるから、それだけでユールヒェンは安心して大丈夫、と優しい声で返した。 ラムスの一件以降、ユールヒェンはミグリアに対して信頼を置くようになった。この人なら信じてみたい、自分も同じ優しさを返したい。そう思えるミグリアに手を握られても過去が過ぎって怯えることもなく落ち着けた。 そうして繋いでいる手を何故かガン見するアレン。それに気付いたミグリアはアレンに話しかけた。 「ねぇ、アレンくん借りていい?」 「え?俺?別にいいけど…」 「お買い物に付き合ってくれないかな?」
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