第3話

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胃が満たされ、使ったものを全て洗ってなおしてしまうと、頭が完全に覚醒してしまっていた。眠気が来るまでどうしていようか、ぼんやりと考えながら扉を開けると、その音にビクリと肩を跳ねさせた男が振り返った。 ウバルーノだ。普段は肩につくほどある髪を項で束ねているのに、今はそれが解け、心做しか普段よりボサボサしている。服装も伸びきったシャツを着て、じろりとユールヒェンと目が合った。その腕には、横抱きに抱えられたヴェロニカ。 「何してんだ」 「あ、あの、晩御飯を…」 「…ふん。食ったならさっさと寝ろ」 「はい、ごめんなさい…」 突き放した言い方にビクリと肩を震わせ、思わず俯いてしまう。ウバルーノはそれだけ言ってしまうと、ヴェロニカを抱えたままさっさと2階へ上がっていった。 普段は粗暴で冷たい雰囲気を醸し出しているウバルーノなのに、なぜだかヴェロニカを抱き抱えている時はほんの少しだけ優しく見えた。あまり振動しないように擦るような歩き方、慎重に階段を登り、支えた腕はしっかりとヴェロニカの身体を抱き寄せている。 仲間は大切にする人なのだろう。直感的にそう思った。そして同時に、自身はまだ仲間として思って貰えておらず、船長の命を脅かす可能性のある危険物資と捉えられ警戒されているのだと気付き、ユールヒェンはぎゅっと手を握りしめた。 『…本当に戻ってきてよかったのかな』 ウバルーノから向けられた冷たい視線に震え、心を落ち着かせようと1度甲板に出た。 月と星が海に反射し、水面が緩く揺れる度に星がキラキラと輝いて、まるで星の中に浮かんでいる様だ。手が届いてしまいそうな程明るい月がユールヒェンの髪を照らし、その銀糸は天の川のように風になびいている。シャルル島の方を見てみると、森に囲まれた家々が光り、夜をぼんやりと照らしている。未だ耐えぬ人の笑い声。海に反射していた光は島の周りを囲む森に遮断され、その中心にはまた星が瞬いている。 『小さな星の池みたい』 ずっと村に住んでいた少女は、少し遠目に見た人々のあかりがこんなにも綺麗なものだと知らずにいた。手摺をそっと握り、辺りをじっと眺める。 『こんなにも綺麗なものが、壊されてしまうところだったんだ』 そこでぱっと思い出す。何故そこまで思い出さなかったのか、自分でも分からないほどぼんやりとしてしまっている。 「あの悪魔は…アーサーさんは、一体どう…」 「あいつなら倒したぞ」 衝動的に船を飛び降りようと手摺にぐっと体重をかけた時、後ろから声をかけられた。少し呆れたような声色に振り返ると、船内へはいる扉を開けもたれ掛かり、腕を組んでユールヒェンを眺めるアーサーの姿が。その体には見る限り傷や痣などは見えない。はぁ、と小さな溜め息をひとつ、アーサーはゆっくりユールヒェンの方へ歩いてきた。 「アーサー、さん…」 「体の調子はどうだ」 その声は、あの時聞いた声と同じ優しい色を持っている。目の前に立つアーサーの瞳は変わらず綺麗で、じっと見蕩れてしまう。 アーサーはユールヒェンの身体に傷一つないことを確かめると、横に並び、手摺に肘をついた。 「綺麗だろう。こういうの、見たことないんじゃないか」 「は、はい。…人が住んでいる街って、こんなにも綺麗なんですね。 アーサーさんが、守った街…」 「お前が守った街だ」
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