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第十四話
煌は話し上手で、αなら当然なのかもしれないが、とても博学で、施設規定の小中高エスカレーターの一貫教育で育った皐月には知らない世界のことをたくさん知っていた。
皐月は子供のように目を輝かせながら楽しげに、煌の話すこと全てに相槌を打ちながら聞き入った。
ふと、ソファシートの上で手を握られ皐月はドキリとした。嫌悪感は特になくて、抵抗もせずそのままにした。
「皐月くんのこと、もっと知りたいな。外で飲み直そうよ」
ポソリと甘く囁かれ、皐月は素直に頷いた。
詠月に会った時もそうだった。αにはΩには逆らえない何かを持っている。具体的に何が、でなく、もっと潜在的意識の深い場所にある形容しがたいもの。それこそ本能という言葉が一番しっくりくるのかもしれない──。
「ホ、ホテルッ??」
煌びやかなホテルの玄関前で車を停められ、皐月は青ざめる。
「ここのバーカウンターすごく雰囲気があって綺麗なんだ」
「あ、バーカウンター……」
皐月は自意識過剰に反応した自分を恥じたのか、顔を赤らめ俯いた。その仕草にクスリと煌が笑う。
「僕ってば信用ないな。今日会ったばかりだもんね、仕方ないか。でも会ったばかりの人にいくらなんでも、ね?」
その言葉は全く信用ならないので今は聞きたく無かったな、とそれが皐月の本音だった。
ドアマンに迎えられ、車から降りると、ポケットの中で携帯が震えた。
「どうぞ」と煌に促され皐月は画面を確認する。
瑠璃からのメールだった。
急ぎではない気がしたので煌に「大丈夫です」と声を掛け、ポケットにしまう。
皐月はこのメールをすぐ開けなかったことに後々後悔する羽目になるとは、この時、一欠片も疑っていなかった──。
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