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第十五話
煌の言っていた通り、高級ホテルのバーカウンターは煌びやかなシャンデリアが天井に幾つも吊る下げられ、ソファ席の照明は手元のロウソクだけだった。
見た感じあまりΩがいるようには思えない。
男も女も皆、華やかで品がある。場所的にもαが常連客なのだろう。
「あの、あんまり強いのは飲めなくて……」
「わかった。アルコールのないのにするよ」
煌はソファ席に皐月を残してカウンターに向かった。席で注文しないんだなと、皐月は少し不思議に思ったが、バーのしきたりがわからないので深くは考えずにおいた。
ジャケットの中で携帯がまた震えた。瑠璃にメールを返していなかったから催促だろうかと画面を見ると、それは詠月からの着信だった。
画面に詠月の名前が表示されるだけで皐月の胸はズキリと痛んだ。
初めて見る華やかな空気呑まれ、恍惚と高鳴っていた胸はあっという間に冷たくなった。
詠月の声を今は聞きたくない、と皐月はわざと電話を切り、電源を落とした。
グランドピアノの音色を初めて生で聴いた。
男性ピアニストが器用に指を踊らせ心地良いメロディを紡いでいる。
そのせいなのか、皐月はなんだか眠くなって来た。
クラシックを聴くと眠くなるなんて子供みたいで恥ずかしいなと、皐月は必死に目を開けようとする。
「大丈夫? ここ暗いから、眠くなりやすいよね?」
「あっ、いえ、すみませんっ。さっき、緊張してたからかも……」
「じゃあ寂しいけど、ここでお開きにしようか。送るよ。立てる?」
煌は優しく微笑むと立ち上がり、皐月に手を差し出した。
「あ……、すみません……大丈……夫……」
皐月の意識はそこで途絶えた──。
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