第二十三話

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 ドン! と右肘で荒々しく壁を叩く音がスピーカーからも響く。  こんな詠月を皐月は見たことがなかった。  いつもは余裕たっぷりに、涼しげに笑みすら浮かべて冷静で理論的。感情論なんて聞いた試しがない。  だが、今目の前にいる詠月は、ネクタイを緩め、シャツのボタンが幾つも開かれたせいで胸は大きくはだけ、走って来たのか髪は乱れ、汗を掻いている額に髪が張り付いている。    こんなの皐月が知る詠月じゃない。  どちら様ですか? と、再度伺いたい気分だが、そんな空気も猶予も今の皐月にはなかった。 「か、帰って! もう、会いません!」  皐月が必死に絞り出した声は思わず裏返るが、次に詠月が寄越した返事に今度は一気に頭に血が上った。 「認めない!」 「は、はぁ?! ナニサマなんだよっ、絵に描いたようなαだよね! 横暴で、Ωのことなら何でも思い通りになるって思って……」 「思ってるよ! 皐月は俺のものだ!! 他のαだって?! 冗談じゃないね! 君みたいなロマンチストの天然Ω相手に誰が番になってくれるって言うんだ!」 「はあ?! それが本音なんだ! サイッテー! 最低男!! 呼び捨てにすんなっ、そんな仲じゃありません!!」     
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