第二十六話

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 Ωが早く番を求めるのは、幼くして親と引き離されたのが原因なのだろうと皐月は思った。  Ωの子供たちは親の愛情に飢えたまま大きくなって、その代償をαに求めるのだ。 ──それは寂しいことではないのだろうか。  目の前の番は、優しく柔らかな眼差しで、皐月の両掌を大切なものでも扱うかのように包み込み、生まれくる我が子を思って幸せそうに微笑んでいる。  皐月はその景色を、まるで夢の世界みたいだと思った──。  自分の妄想で描く漫画の世界の出来事が現実になったみたいに、好きな人と結ばれて、その人の子供を授かって、 これから家族で未来を紡げる。  漫画の世界では簡単にありえる世界を、Ωである自分が現実で送れるなんて、心のどこかでは信じていなかった……。だからこそ、夢見て、理想ばかりが膨らんでいく中、どこか冷めたもう一人の自分が遠くからそんなものは妄想に過ぎないと、諦め。行動を起こさない無頓着な自分を棚に上げて、自分なんかは何をしても幸せにはなれないのだと、一歩も踏み出していないのに、最初から決めつけていた。  詠月と出会えたことは本当に奇跡なのだ──。  本来ならば自分はあの合コンできっと最後まで一人浮いた存在で過ごし、一人虚しく施設に帰って延々と後悔しては己の不甲斐なさに泣いたはずだ。     
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