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---隼人side---  吐く息が白かった。  二月の早朝。街はまだ眠りについている。どんよりと重たい雲の隙間から、ひらりと白く舞い落ちるものがあった。  あ、雪だ。  凍てつく空気に、鼻の奥がつーんと痛んだ。隼人(はやと)は右手を自転車のハンドルから離すと、鼻の下をこすった。冷たい風は身を切るほどなのに、胸の奥はほくほくと暖かい。  早く帰らなきゃ。  頭に浮かぶのは、いまもまだベッドで眠っているはずの恋人だった。  恋人だ。片思いなんかじゃない。ずっと好きだった。  いまでもまだ信じられないような気持ちに、鼓動が躍り出しそうになる。天にも昇る気持ちとはこのことをいうのかと、隼人は繰り返し思ったことを、再び思った。寒さで硬直した頬が、へらっとゆるんだ。  ーー恥ずかしいから、そのバカ面やめろ。  ぶっきらぼうで不機嫌そうな、けれど逸らした顔からのぞく色の白い首筋が言葉を裏切るように淡く染まっている恋人の姿が目に浮かぶようで、隼人は目を細めた。  へへっ。  そろそろ暁生(あきお)も目を覚ますころだろう。念のためメモは残してきたけれど、その前には帰りたかった。  
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