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いよいよ私の目的地、世界の熊館へ行くことにした。
「いや、世界の熊館、今、行けないですって」
「何よそれ」
「さっき切符買うところで言われたじゃないですか」
「知らないよそんなの」
「だってあかりさん、きこさんとずっとしゃべってて、
『いいんですか?』って僕が訊いたらにらみつけたじゃないですか」
「あら」
「知らないよっそんなの!」
愕然とした。
世界の熊館の目印のトーテムポールみたいな看板はすぐそこにあるのに、
ロープで行けないようにしてある。
ロープにはこんなメッセージがぶらさがって、
人を小馬鹿にするみたいに風に揺られていた。
「マジで?」私は叫んだ。
私のとなりではきこちゃんが「残念ねえ」と言うように目を見開いていた。
「残念ッスねー。僕、言ったじゃないッスかー。
もう、ちゃんと人の話聞いてくれないと困るなあ」
ちっとも残念じゃないようにカフェオレ男が言ったので、脇腹をチョップしてやった。
「ホッキョクグマが見られない動物園なんて、ビールが飲めない焼鳥屋と同じだよ」
「残念だったね」
「日頃の行いが出るんですよ」
私はカフェオレ男の膝の裏を蹴飛ばしてやったけれど、
そんな程度で気がおさまる私じゃない。ふえーんと泣いてやった。
「また春に来たらいいじゃないの」
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