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かたん、と椅子を引く音がして、カフェオレ男が座った。
「また僕の悪口言ってたんでしょう?」
「女の子だけのお話をしてたの。カフェオレ男さんには内緒なの」
カフェオレ男の目の波ダーシが、訝しげにきつくなる。ふにゃりと。
「何でもねっつーの」
「あかりさん、かなりガラ悪いッスよ。きこさんとくらべたら女子力ゼロっスね」
「るせー」
近くできゅるると音がした。きこちゃんのおなかが鳴ったのだ。
そういえば、朝ごはんを食べたのは午前のニュースの頃だ。
お昼はとうに過ぎ、既に太陽が黄色味を帯びて傾きかけていた。
「どうしようか。きこちゃん、おうちに帰らないといけない時間?」
「んーでもおなかすいたな。おなか優先って感じはするな」
「僕もすきました」
「いや、あんたはどうでもいいから」
「何言ってるんですかぁ。僕なんか買い出しに出て拉致られたんですよぉ」
「拉致ってませんー。自発的について来たんじゃん。自覚持てよ」
「じゃあ、僕のうちに来ませんか? 僕、作りますよ」
「カフェオレ男さんが?」
「エサじゃないんだよ? うちらのごはんだよ?」
「何言ってるんですか、僕、料理かなりうまいですよ。
スパゲティくらいなら材料もあるし、うちに来てくれていいですよ」
「どうする? きこちゃん」
私たちは顔を見合わせた。
このまま帰りたくないけれど、帰らないのは大人気ない気もしたのだ。迷う。
「冷えたし、食後にラムココア入れてあげますよ。
あかりさん、ラムココア好きでしょう?
僕、ココアの練りはかなりのもんなんです。
隠し味に塩。生クリームはたっぷり浮かべます」
自慢げな波ダーシを浮かべたカフェオレ男がすこぶる頼もしく見えた。
「素敵。ごちそうになりたいな」
きこちゃんが私の背中を押してくれた。
「よろしくてよ」
ふてくされてごきげんな私は、ふたりの大人につれられて、動物園を後にした。
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