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私は地下鉄円山公園駅まで徒歩30分くらいのところに住んでいる。
最寄りの地下鉄駅までは徒歩15分程度、円山公園近くまで行くバスもない。
意外と不便なのだ。
真冬の徒歩30分はつらかろうと思い、タクシーに乗ることを提案したが、
きこちゃんは歩くと言った。
午前11時の真冬の晴天は、潔くて眩しい。
時折、小粒の雪が真っ青な空にはらはらと舞った。
一歩踏み込む毎に足元から片栗粉の音がする。ぎゅっ、ぎゅっ、と。
「それで歩くのはつらくないかな?」
きこちゃんはすばらしく美しい、そして華奢なハイヒールのブーツを履いていた。
おまけにコートは真っ赤なロングトレンチで、遠くから見てもゴージャスだし、
近くから見たらその素材が確かに高級だということがわかるし、
触れてみたら血統書つきの猫っみたいにふんわりとすべらかだ。
およそ動物園へ行く装いではない。
「平気」
ときこちゃんは言い切った。
「歩けば温まるわよ」
というわけで、ピーコートにカラージーンズ、
しましまのマフラーにぼっこ手袋(ミトンのことだ)、
アディダスのスタンスミスという動物園にふさわしい装いの私と
非動物園的な装いのきこちゃんは動物園への第一歩を踏み出した。
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