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歩きながら、お互いに「円山動物園に期待するもの」について語り合った。
私が期待するのはホッキョクグマで、きこちゃんはサル山だった。
「シロクマ」
「いいえ、ホッキョクグマ」
私は右手の人さし指を立てて訂正した。
シロクマは俗称。ホッキョクグマが正しい。歴代の恋人にも徹底している。
「ホッキョクグマね」
きこちゃんはきちんと訂正してくれる。私は彼女のやわらかな律儀さが好きだ。
「冬のホッキョクグマっていいかもしれない。それらしくて」
「うん」
以前、テレビCMで観た。
雪景色の森の中、ホッキョクグマがビング・クロスビーの
『レット・イット・スノー』をBGMにアウディをヒッチハイクしていたのを。
以来、車も免許も持たない私が、乗りたい車はアウディだ。
ホッキョクグマの吐く息は白く、そして常に微笑している。
アウディに乗りさえすれば、いつかあのホッキョクグマに会えるかもしれない。
きこちゃんがサル山に期待するのはその社会性だそうだ。
あっちでは毛づくろいをし、こっちでは授乳、そっちではボス争いと、
一度に社会の縮図を見るようなのがたまらないのだそうだ。
「サル山社会はね、過酷なの」
と白い吐息とともにきこちゃんはつぶやいた。
「過酷なのがいいのね」
「リアルドラマが好きなの」
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