薄桃色の雪

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薄桃色の雪

仕事中、鼻血が出た。 右の鼻の穴が、妙に熱を持った感じがするな、と思ったら、 さらさら水っぽい鼻水が、つつーっと落ちて来た。 慌てて拭うと、指先が赤く染まった。 そしてぼてぼてと流れてきた。 隣の席の子が驚いて 「ツッペ作ります!」とティシュで鼻栓をつくってくれた。 誰かが「またかよ」と言い、他の誰かがクスクス笑った。 つられて私も笑った。手のひらには朱色に近い、赤の汚れ。 心の中でこっそりため息をつき、化粧を直しにトイレへ立った。 これで月曜日から5日間連続して、鼻血を出したことになる。 やたらと鼻血が出るのには、きっと理由がある。 もう2カ月近く、生理が来ていない。 毎月きちんと排出されないものが、鼻から出てきているのだ。 病気じゃないといいな、と思った。 生理が来ない理由も、自分でわかっている。 仕事が忙しすぎて、身体のバランスがおかしくなってきているのだ。 この状況は半年前からジワジワと忍び寄り、 この3カ月間に至っては、残業時間が月平均100時間を超えた。 完徹も当たり前。 自宅には、お風呂と、着替えのために帰っているようなものだ。 会社でもほとんど眠れない。 眠れないどころか、着席すらできず、 あちこちのフロアを走って移動している有り様だ。 営業とクライアントに振り回されて、現場は大混乱。 後輩は泣くし、同僚は見て見ぬ振りだし、上司は無能だった。 錯綜する情報、後手に回る手当て、機能しないチームワーク。 一握りのチームメイトだけで、ありえない量の仕事をさばいた。 司令塔のいない団体戦。負けて当たり前。 今週の頭から鼻血が出るようになったのは、 きっと、少しだけ、状況が緩和されてきているからだ。 先週の金曜日には、大きいヤマをひとつ越えたし、 土日は久しぶりに、完全に休むことができた。 それで身体は、ゆっくりと体制を立て直そうとして、 とりあえず鼻血でも、ということなのだろう。
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