甘く冷えた街で

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甘く冷えた街で

今朝、おばさんがストーブをつけてた。 信じられない。もうすぐ6月になるのに。 でも確かに寒かったし、おばさんがストーブをつけてくれて正直ホッとした。 でも6月にストーブだ。夏なのに。 札幌は人口180万の政令指定都市なのに。 朝のストーブにびっくりして、コートを出そうとしたら、おばさんは 「多少寒いだろうけど。コートを着るほどじゃない」と言った。 だから、制服の上にカーディガンだけ羽織ることにした。 ちょっと寒いけど、指先まで袖を伸ばせば、わりとイケる。 もうすぐ6月なんだってば。ミュールの季節なのに。 私の足元は学校指定のローファーとハイソックスのままだ。 校則だからか。季節は関係なかったかも。 学校を出る頃に、おばさんから待ち合わせ場所変更のメールが来た。 土曜日、学校がある日のお昼は、おばさんと一緒にごはんを食べに出かける。 おばさんは「飲食店経営コンサルタント」という仕事をしているので、 外でごはんを食べるのは仕事のひとつなのだ。 今日、ホントは中島公園の近くにある魚料理がおいしい(らしい)フレンチの予定で、 パークホテルのロビーで待ち合わせていたのだけど、 おばさんの都合で大通公園のベンチに変更になった。 5丁目の、ロイズの向いのところ。4丁目より少し地味だ。 周囲の建物の感じとかが、日比谷公園の帝国ホテルのそばに似てなくもない。 柱にバリ島の神さまみたいのがへばりついてて、 そいつらの口から、水がシャーシャー出てる噴水がある。 地下鉄駅出口から外に出たところでメールを入れて、 おばさん指定のベンチに腰掛けた。 太ももに鳥肌が立った。寒いらしい。 頬のあたりがチリチリするし、もしかして、吐く息が、白い。 座って見上げると、頭上にライラックの花が咲いていた。 地下鉄から外に出て、甘い匂いがするな、と思ったらこの花の匂いだった。 口の悪い人は、トイレの芳香剤の匂いって言うだろう。 トイレの芳香剤の匂いに混じって、焼きとうきびの匂いもする。 うちはお父さんもお母さんも札幌の人間なので、 私は何の疑いもなく、とうもろこしを「とうきび」と呼んだ。 小学校の頃は一時期「ぶきび」と呼ばれたが、 ひるむことなく、とうきびと言い続けた。
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