甘く冷えた街で

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顔の周りに、ひんやりとした、甘い匂い。 札幌に来た頃、この公園は黒いみぞれ状の、 ジャリジャリした雪の固まりだらけだった。 それが解けて、ちょっと前まで、まるで東京の冬みたいな景色だった。 葉の落ちきった木立。モカ茶の春。 入学式に桜が咲いていないなんて違和感たっぷりだ。 授業に慣れて、 クラスの子と何を話題にしたらいいのかを把握し始めた今頃になって、 季節を変えるのを忘れた神さまが一斉に札幌を春にした。 5月だというのに梅が咲き、同時に桜が咲いた。 「こぶし」という木は、白い大きな花をつけていた。 山吹色に咲く、山吹。紫と白のライラック。 札幌の春は狂ってる。 「落ち着かないねえ」と私は春に向って小声でささやいた。 札幌の春。あんたホント落ち着かないねぇ。 私の心は騒ぎっぱなしだよ。 「お待たせ」と、真希おばさんが目の前に現れた。 おばさんはアイボリーホワイトの地に マリー・ローランサンの色づかいに似た糸が織り込まれた パステルカラーのサマーツイードのジャケットに、 ふんわりと広がるアイボリーホワイトのシフォンのスカートを履いている。 素足にヌメ皮のストラップシューズ。 真希おばさんの靴はどれも7cm以上のハイヒールだけれど、     
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