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「さすがに寒いわね。今日の最高気温13度ですって。待った?」
「ううん」
最高気温13度。どうりで鼻の頭が冷たくなってるはずだった。指も冷たい。
「今日、お魚のお店じゃなくて、伏見のてんぷらのお店に行きたいんだけど、いい?」
「私はかまわないよ。おなかすいた」
「車、あっちに置いてあるの」
おばさんが言い、私たちはベンチをあとにした。
「すごいね、花の甘い匂い。街中がトイレみたい」
おばさんは、はははと笑った。
「でもトイレの芳香剤よりはいい匂いがする。自然のものだからかな」
「そうね」
おばさんはにっこり笑い、バッグから車のキーを取り出して言った。
「今の、街中がライラックの甘い匂いに包まれる頃、寒の戻りがあるんだけど、
『リラ冷え』って言うんですって」
「リラ?」
「ライラックのこと。ライラックのフランス語読み」
「ふうん」
「昔、北海道出身の作家がそう表現して出来た言葉らしいんだけど、
ちょっと素敵な『方言』よね。フランス風で」
「ライラック冷え、じゃね」
「語感がね。さまにならないわね」
「ねえおばさん、札幌って、日本じゃないよね」
「そうね」
おばさんが表情を変えずにそう答えたので軽く驚いてしまった。
私には人のリアクションに期待する傾向がある。
「えーっ、そうおぉ?」とか言って欲しかったのだ。
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