数学教師の加虐

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放課後の教室。 だれもいなくなった空間に、カツカツと小気味の良いチョークの音だけが響き渡る。 「この問題、でしたね?」 男は板書の手を止めて振り返る。 茶色がかった真っ直ぐな黒髪、神経質そうな目鼻立ちにシャープな眼鏡。 「…はい。」 少年は男の目の前の席に座したままそう答える。骨の折れそうな華奢な身体。まるで室内から出たことがないのではと疑うほどの白い肌。少女のような丸みを帯びた顔立ち。 「では解説に入ります。…と、その前に。」 男は不意に教卓越しの少年を見つめる。 「体調でも悪いのですか?」 「えっ…、」 俯いていた少年がぱっと顔を上げる。 その頬は僅かに上気し、瞳は潤んでいるように見える。 「熱でもあるのではないのですか?」 男は教壇を降り、少年の側に屈み込むとその小さな額に手をあてた。少年は内心ひんやりした男の大きな手が心地よいと感じていた。しかしー。 「…大丈夫です。少し、疲れているだけだと思います…」 少年はその手から逃れるように顔を俯ける。
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