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来ている。確実に。
扉の前まで。
どくんどくんと鼓動に合わせ全身が戦慄く。身体は熱くて堪らないのに、急に背筋が冷えてゆくような感覚に襲われる。
足音は扉の直前で止まる。
少年は無理な体勢から目線だけを美術室の扉へ向けた。
曇りガラスの向こう側。
黒い影が、じっと立っている。
「…………っ、」
「ま、どーせ入ってこれないだろうけど。」
「えっ………?」
影から目を離せないまま少年は男の声を拾う。
確かに。
美術教師の言葉通り、しばらく経っても黒い影は部屋に入って来ようとはしない。
一体どうして……。
あの黒い影の人物は、この部屋から聞こえる音を聞き様子を見に来たのではなかったのだろうか。それに、美術教師の言う「入ってこれない」という言葉も気になる。
「そういう、ルールって言えば良いのかな。」
少年の怪訝そうな表情を見た美術教師がやれやれと言った様子で言葉を繋ぐ。
「ルール…………?」
影から目を逸らすことはできない。激しく鳴る胸の音がうるさい。
影はしばらくじっとしていたが、くるりと踵を返すような動作をしたかと思うと、来た時と同じ靴音を鳴らしゆっくりと静かな廊下の奥へ消えていった。
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