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「こんな夢を見た。腕組をして枕元に座っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている…………」
開いた窓のすぐそばから声は聞こえる。声はすらすらと淀みなく紡がれる。落ち着いた雰囲気の中に不思議な色香を纏うそれに思わず聞き入る。先ほどまで感じていたはずの気味悪さが薄らいでゆく。
風に舞うカーテンを開くと男が1人、花壇の脇で本を開いていた。色素の薄い長めの髪から差し込む陽光。小さく白い花びらが夕方の微風に舞う中、優美な面持ちがふとこちらをとらえる。
「国語の、先生……………」
「おや、」
男は少年に気がつくとにこりと微笑んだ。優しそうな目元が一層綻ぶ。
「具合いでも悪かったの?今日の授業はとっくに終わってるけれど……」
「…え、と……はい」
一日中ここで横になっていたことを言おうかどうか少年が迷っていると、男はふと立ち上がり窓の桟のすぐ前へ座り直した。
ベッドの上に座ったまま窓の外の男を見上げる形になる。細くしなやかな手足と柔らかい表情とで威圧感はなくむしろ優雅な雰囲気さえ感じるが、かなりの長身であるらしい。色素の薄い美しい髪色も手伝ってか、その風貌から遠国の王子を少年は連想した。
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