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男はじっと少年を見つめている。
蒼みを帯びた宝玉のように澄んだ瞳に捕らえられ、少しの緊張が走る。
「あ…、先生はここで、何を…?」
気まずさを取り繕うように聞いてみる。
「ん?ああ、朗読の練習だよ。」
「朗読…」
「そ。」
男は本を再度開く。
「自分は透き徹るほど深く見えるこの黒眼の色沢(つや)を眺めて、これでも死ぬのかと思った。それで、ねんごろに枕の傍へ口を付けて、死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね、とまた聞き返した。すると女は黒い眼を眠そうにみはったまま、やっぱり静かな声で、でも、死ぬんですもの、仕方がないわと云った。」
艶やかな唇から流れ出すは柔らかなテノール。伏し目になった長い睫毛が夕陽を金に反射した。
「悲しい話なんですか………、この本……」
男の優しげな声に安堵し、少年は再度口を開く。
「夢十夜だよ。あ、まだ習ってなかったかな。」
「はい。」
「そっか。うぅん、悲しい話かと言われると難しいなぁ。読む人に、依るんじゃないかな。」
「そうですか……」
「簡単に言うとね、死者の甦りなんだ。」
「よみがえり………?」
「うん。男は愛した人が生まれ変わって戻ってくるのを、百年待ち続けたんだ。」
「百年……!」
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