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「ふふ、そんなに怖がることはないよ。」
震える少年に男は先程まで持っていた文庫本を差し出す。
「上手に朗読できたら、離してあげるから。トイレにも行かせてあげる。」
びくびくと男の様子を伺う少年。
いきなり唇を奪われて、同じ寝台の上に来られ、今度は何をされるのかわからない。
けれど….、差し迫る生理現象にはどうしたって敵わない。
「わかり、ました……」
おずおずと男の手から本を受け取る。
「この頁(ページ)のここから、読んでね。」
男が指差す箇所を確認し、息を吸う。
早く、終わらせてしまいたい。
保健室に響き渡る少年の細い声。
仕切りの白いカーテン越しに、二人の長い影が伸びる。
所々習っていない字が見られ、その度読みがつかえてしまう。この喉元に伝う冷や汗も、今隣でにこやかな表情を浮かべている男に見られているだろうか。じっと見つめられていると、緊張で息をする間合いがわからなくなる。ただ字を追って声に出す、それだけが酷く苦しいものに思えてくるのだ。
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