国語教師の誘惑

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男は黙っている。 「はぐらかされてしまって、答えは聞けませんでした…。けれど……」 「君、それはいつのことだい?」 不意に男は訊く。 「それは…こないだ………」 「こないだって、いつだい。一昨日?一週間前?それとももっと前かな。」 男は静かに尋ねる。 「それは………」 しばしの沈黙。 少年は困惑した。 「いつ」だったのか………。 何故、 たった、 それだけのことを、 自分は「思い出そうとしている」? 記憶を探れども探れども、ぼんやりと霞がかかったように思い出せない。 以前にもこんなことがあったような気がする。 何かを、思い出そうとして思い出せない。 そんなことが。 「……っ、っ!」 少年がびくりと肩を戦慄かせる。 男が少年の白い鎖骨を食んでいた。 「思い出せないんだね…」 つ、と舌で骨をなぞられれば治まりかけていた甘い疼きがまたじわじわと少年を苛む。 「…っ、教えて、ください……っ、何もわからないまま…………そんなのって……、……」 「『罰』だよ。」 「え………?」 『罰』。 男は確かにそう口にした。 「それって……、何の…………」 「教えられない。」 返ってくる返事は短く、冷淡だった。
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