技術科教師の憧憬

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目の前の男は何かに憑かれたように熱を湛えた目でとうとうと話しかけてくる。少年は不自由な体勢からくる苦しさからまったく相槌を打てずにいたが、そんなことはこの男には関係のないことらしい。感性が常軌を逸しているところなど、なんとなく美術教師を彷彿とさせたが、この技術科教師はあの人とはまた違ったタイプである。男は機械油に汚れ袖の擦り切れた白衣姿で、先程から最終点検だなどと言ってそこいらをうろうろしては螺子の調子を見たり鉄の上に乗った僅かな埃を払い落としたりしている。部屋の灯りは点いておらず、辺りは暗い。機械の鉄が反射する僅かな光だけが冷たく少年の肌を冷やしている。機械の全貌がよく見えないことが、少年の恐怖をより煽った。
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