カフェオレ男くんの恋愛と世間体(前編)

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僕が2回転目の洗濯物を干し終え、 鼻歌まじりに床にフロアクイックルをかけていると、 ベッドの中から遠吠えが聞こえ始めた。 オオカミ? スランプに陥ったソプラノ歌手? 見ると、アーちゃんがもっさりと暴れ始めている。 そろそろ起きるらしい。 僕は床掃除を終え、手を洗う。 朝食の支度を始めるのだ。 僕は卵をボウルに割り入れ、かきまぜる。牛乳をほんの少し。塩、胡椒。 熱したフライパンにバターを落とし、 半分くらい溶けたところで卵を流し込む。 じゅわぁぁぁぁ、という音と卵とバターの匂いが、 温かく僕の鼻をくすぐる。フフフン、フン。 「んげぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~」 妙齢の女性、いや、人とは思えない野性的なうなり声が聞こえてくる。 そして寝ている人とは思えない、激しい寝返り。 大の字 → 「く」の字 → 逆「く」の字(えびぞり?) → 最後には「眠れる森のプリンセススタイル(アーちゃん命名)」。 これは単純な「気をつけ」スタイルの仰向け姿勢。 ソーセージとオムレツを皿に盛り付ける。 いつもながら完璧な仕上りのオムレツ。ふっくらとした三日月。 僕は自分の仕事に満足し、気合いを入れ直してアーちゃんを叩き起こす。 「アーちゃん、起きろ。オムレツ焼けた」 アーちゃんは目ヤニをいっぱいつけた目を半開きにして、 口をとがらせて僕に向ける。チュ-っと。 まるでヒョットコのようなツラ構え。 この人は、不満も欲情も、同じツラで表現するのだ。 かろうじて目付きに差があるのみ。 「その口やめろぉ」 「お姫さまだから、チュ-しないと起きないんだもん」 僕は彼女の頬を、ぎゅーっと両手で挟んで申し立てる。 「だからその口やめろってぇ」 アーちゃんは「ぎぇ~」とも「ぎゃ~」ともつかない奇声を発する。 そしてようやく普通の面構えになる。 僕はきちんと彼女に「おはようのキス」をしてあげる。 いつもながらのバカップル的儀式。 こんなに気恥ずかしいことも恋愛の醍醐味だ。
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