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カフェオレ男くんの恋愛と世間体(後編)
わき目もふらずに走るさまを表す言葉。
「一目散に!」
それが今、この瞬間の僕を表すのに一番適切な言葉だった。
僕は強風を味方に、
タカタカと手足をバタつかせてプレイマウンテンの中腹まで一気に転げ降りた。
途中、何度も転びそうになったけれど、転んでる余裕なんかない。
にしても。
一番恐れていた事態というのは、どうして現実になってしまうんだろう。
僕が中腹の地点で降りようか、それともアーちゃんに知らせるべく戻ろうか、
うろうろと待っていると、アーちゃんがきょとんとした顔で遠くから
「ねえ! ヨシアキくん! どうしたの?」
と、こともあろうに大きな声で叫びやがった。
あどけない顔をして。
少女質の、仕事をしているときとはまったく違う印象で。
僕が硬直していると、アーちゃんは心配そうな顔をして降りて来て、
もう一度言った。
「ヨシアキくん、どうしたの? あそこの上にいるかと思ったのに。
あの、上んとこでワイン飲まないの?」
僕は声を出すために唾を飲み込み、ようやく言った。
「アーちゃん。あのてっぺんはダメだ」
「何で?」
「サッチン」
「サッチン?」
「サッチンがいた」
僕はプレイマウンテンの頂上の黄緑色の人陰を指差して、告げた。
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