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「どれよ」
「あのカエルみたいな色の服の」
アーちゃんはやや眺めて、
「サッチン?」
「サッチン」
「えー、サッチンはこんなとこ、来ないよ、あのコ、バリバリのインドア派だもん」
「いや、あの前髪パッツンロングで、赤いセルフレーム眼鏡で、カエル色の服。
あんなのサッチンしかいないって」
「じゃあ、私、見てくる」
アーちゃんは果敢にも僕を放置し、再び頂上目指して上って行った。
そして頂上の一段下を一周して、再び僕のところへ戻って来た。
「どうだった?」
「似てなくもないけど、違うとも思う」
「違う?」
「でも」
アーちゃんは振り返ってサッチンらしき人を確認して、言った。
「あのかばん、サッチンがこないだ買ったっていうかばんに、似てなくもない」
「かばん?」
「みどりの亀がたくさんついたトートバッグ」
僕は少しだけ前に行って、かばんを眺めてみた。
「似てなくもない」どころか、そのまんまのかばんだった。
サッチン、というのは、僕らの職場にいる、アシスタントの女の子だ。
この子と、この子の上についている数名が噂をまき散らす元凶であり、
彼女は職場内でもっとも警戒すべき人物のひとりだ。
実は僕らが恋におちる寸前に、まったく別の場面から、
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