ススキノ・フェアリー・プリンセス

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リュウの店に来たら、はちみつとレモンのお湯割りを飲む。 温かくて、すっぱくって、おいしい。 リュウが言うには、バレリーナが飲むのにふさわしい飲み物のひとつだそうだ。 「何読んでるの?」 訊くと、リュウは表紙を見せてくれる。 航空写真に、カエルがペタペタ貼られてる。 「面白いの?」 「面白いね。読んでると、身体の芯に火がついて、心がぐっと動き出すのがわかる」 「私も読める?」 リュウはちょっと私を見て、 「読んで、難しかったら、また読みたくなるまで待てばいい。  ……けど、この作家で、お前向きなのがあるぞ」 「ホント?」 「ダンサーの女の子の話だからな。今度持ってくるよ」 リュウは私を他の大人のひとみたいに面倒に扱わないから好きだ。 面倒っていうのは、姫とのふたり暮らしにイチャモンをつけるとか、 バレエをやっているのが贅沢だとか、がんばれとか言うとか、 いちいちカワイイだのなんだの言うとか、 思ってること言うとナマイキだとか言うのとか。 「そうだ」 リュウはCDのジャケットを見せてくれた。 ベルベットのドレスとか、舞台の緞帳みたいな赤に、 犬のぜんまい仕掛けのおもちゃの写真。 犬は、玉コロガシをしてる。 全部英語で書いてあるから、さっぱりわからない。 「前に言ってたの、これだろ?」 リュウはそう言って、そのCDを取り出してかけてくれた。 「『くるみ』だ!」 聴けばすぐに舞台の情景が見えてくる。 身体が勝手に動き出しちゃう。でもこれ、踊るにはテンポが早い。 聴いてると手足がもつれちゃいそう。 ああ、でもすごくワクワクする。 そういえば先生が前に言ってたことを思い出す。 「あなたが踊り出すと、音楽が聴こえて、  その音楽が目に見えるようね。  あなたの踊りそのものが音楽なんだわ」 先生の言うことはチューショー的だけど、でも、なんとなくわかる。 音楽が聴こえてくると、身体が勝手に動き出す。 どんな風に動けば音楽を人に見せられるのか、見てる人が喜ぶのか、 私は、なんとなく知ってる感じがするのだ。
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