ススキノ・フェアリー・プリンセス

12/14
前へ
/14ページ
次へ
「でもこれ、早いよ。こんなじゃ踊れない」 リュウはCDジャケットの下についた、 青いおうちマークを指さして言った。 「キーロフだぞ?」 「キーロフ?」 「ロシアのマリインスキー劇場。お前なら『ワガノア・バレエ学校』でわかるか?  ワガノア卒業したら、入るバレエ団がマリインスキー・バレエだな。  マリインスキーって、昔、キーロフって名前だったんだよ。  長くなるから説明省くけど。  この曲を指揮したのが、これ」 「何て読むの?」 「ワレリー・ゲルギエフ」 すげー! すげー! すげー! 私はCDのリモコンでカチカチと曲を送った。このCDの22曲目。 最初、オルゴールみたいにかわいい音色がする。 ピンクのチュチュで、くるっ、くるっと周りながら中央に出るんだ。 「これ、これを踊りたいの」 「おお」 「姫は『ヒッチコック』って言ってたけど」 リュウはちょっとプッと笑った。 「これが『金平糖のヴァリエーション』。  クララはだめかもしれないけど、絶対にこれ、踊るの!」 子どものうちは本当に自由がなくて、いろいろなことに太刀打ちできない。 でも、中学生になったら、貯めたお年玉でコンクールに出て、 高校生になったらアルバイトしてローザンヌに出て、 スカラシップをとって、バレエ留学するんだ。 そうしたらもう、チケット100枚とかは関係なくて、 私がどれくらい踊れるかで、立つ舞台が決まる。 「お前なら大丈夫だよ」 とリュウは言った。 「お前は、イマドキの子どもには珍しく、ハングリーだからな。  踊る技術と動機がある。しかもその動機が他の奴らよりも強い。  技術があっても、動機が弱かったらだめなんだ」 「ああ、バレリーナになりたい!」 「結論を急ぐな。野心をずっと持ち続けろ。  まあ、バレリーナに野心もないか。  強く憧れ続けろ。そして練習をきちんとして、チャンスを待つんだ。  謙虚さと野心。それがお前を舞台へ導くんだぞ」 リュウは聴きあきたらCDをくれるそうだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加