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「あくまでここにある本はあちらとこちらをつなぐくびきのようなモノですけれどね。この本はこの店の先代が、万引きを許せないと言ったある人を文字通りの素材にして産んだとは聞いています。
管理を引き継いだだけの私は詳しくは無いのですが、アナタの憤りも当然ですよね」
読子に言われて一郎ははっとした。
確かに自分はギルティワールドの経緯を聞いて憤っていたからだ。
先代という人物に素材にされた人というのは、おそらく表題にある秋山霧子だろう。
あの世界で出会った秋山霧子と同一人物なら、別れ際に彼女が言った「既に死んでいる」という言葉とも一致する。
彼女にはいい人を探すとは言ったが、それでも一郎はまだ彼女を諦めきれていないでいた。そんな少年に現実の突きつけは辛い。
それに自分と彼女が出会う切っ掛けを作ったとはいえ、彼女を異世界そのものに変えた先代の店主に一郎は怒っていた。
「私も可愛そうな話だとは思っています。この霧子さんは四十年近くもこうして、この店で盗みを働く不埒モノを捕らえる装置になっているのですから。
でも、この力に頼り切りの私にはこんな風に彼女を哀れむ資格もないのかもしれないですが」
「店長さん、アナタは悪くないと思います。万引きを許さないのは彼女の意志なんですから、頼ることにはきっと彼女も怒っていません。
彼女が怒るとしたらそれは、あの世界で悪事を重ねるクズどもですよ」
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