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「まるで霧子さんに会ったみたいな口ぶりですね。彼女はあの世界で生きていたのですか?」
読子の問いかけに一郎は頷いた。
そして一郎は読子に彼女と出会い、そして別れるまでの話を聞かせる。
座敷からの声を盗み聞いていたバイトの葵には与太話にしか聞こえない一郎の冒険譚に読子は笑い、そして最後の別離に涙する。
「霧子さんもやりたい放題のようですが……それよりも向こうの世界も思ったより大変なんですね」
「でも彼女が居るから、行き過ぎたクズは排除されると思いますよ」
「バカは死んでも治らないとは言いますが、アナタのように死んで成仏できた人とそのまま霧子さんの手で死んだ人の差はそこなのかしれないですね」
日が落ちるまで読子は一郎の異世界話に夢中になり、興が乗った読子は彼から聞いた人相に合わせて霧子の似顔絵を描く。
漫画調にデフォルメされた読子の絵は一郎のイメージ通りで、一郎は思わず涙を流す。
「この絵、もらってもいいですか?」
「そうねえ……一つだけ条件をつけるわ。アナタ、ここでバイトしてみない? そうしたらいくらでもあげるわよ」
運良く一郎の通う学校にはアルバイトに制約は無い。
一郎は読子の誘いに頷いて、こうして新しいバイト店員になった。
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