回想

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回想

 世の中には一人しか神様を認めない宗教もあるそうだが、オレとしては神様が一人だと困る。もし神様がたった一人しかいなかったら、自分は間違いなく嫌われているに違いないと思うからだ。  日本には八百万もの神様がいるのだと婆さんに教わったとき、そのうちの一人くらいはオレのことを見つけてくれるんじゃないかと思った。少なくとも今は気づいてくれていないに違いないとも思った。  親父はアル中の一歩手前みたいなヤツで、働くこともせず、三度の飯を食うような自然さで暴力ばかり振るっていた。  母親は父親のギャンブルや酒代のために昼夜働き、家にいるわずかな時間は死んだように横になって動かない。  だからオレは婆さんに育てられた。クソ親父の母親だけあって、気に入らないことがあれば飯を取り上げたり、畑の仕事を日が暮れてもやらせたりする婆さんだった。他の家の子どもはそんなことしない。オレだけだ。  腹が立つから、学校では誰彼かまわず苛めて、殴りちらしてやった。大人はオレが手の付けられないクソガキだと、やはり兎本の家の子だとため息をついて煙たがっていた。     
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