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母親の年齢なんて気にした事も無かったが、美容師として働いている割に地味で俺から見ても決して若くは見えなかった。
そんな母親に、男の影がチラついたのは俺が中学2年の頃だったと思う。
急に服装が派手になり、化粧も濃くなって、店が定休日の火曜日だけは、俺や里奈の為に一応手作りの料理を作ってくれていたのに、休みの日も、スーパーの惣菜が並ぶようになった。
俺はすぐに気がついた。
母親にあえて何か言う事はしなかったが、母親の方から、後ろめたいのか?
「今日はお店の仲間とちょっと都内までメーカー主催の展示会に行かなきゃいけないの。帰り遅くなるから、里奈の事宜しくね」と
バリバリ嘘だと分かる言い訳をしていた。
俺は返事もせずに、母親を睨みつけるように見た。
すると、母親は
「何なの?カズ、あんたっていつもそうよ。冷めたような目でお母さんを見て。何か言いたい事があるんなら、ハッキリ言いなさいよ」と、ヒステリックに叫ぶ。
俺は、普段から母親の顔が嫌いだったが、こんな時の母親を見ると殴りたい衝動にかられた。
あの父親が母親を殴っている顔と音と全てが俺の体を覆ってきて、自分があの父親になってしまったような錯覚に陥る。
そんな時は、自転車を思い切りこいで相模川の上流の方まで走った。
その頃から俺は、どうせ私立高校なんて行けるはずもないから、県立でも有数の進学校に入学して奨学金と言う制度で大学に進もう、そんな風に漠然と思っていた。
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