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ある日彼女に「今日も真由美んちで一緒に勉強しようよ」と言うと、真由美は困ったような顔で
「うん、あのさ~~、カズ君、悪いんだけど、もう、うちでは会えないんだ」と言った。
どうやら、真由美の両親が俺の事を良く思っていないらしい。
真由美は、気を使いながら言葉を探して、俺を傷つけまいとしていたが、俺はバカじゃない。
そんな事すぐに分かった。
「それは、俺んちがアパートだから?片親で、母親が派手で、毎夜毎夜男遊びしてるからかよ?!」と、関係ない事まで口にして、怒りを真由美にぶつけた。
真由美は哀しそうな顔をして
「カズ君、そんなんじゃないよ」と言った。
俺は俺の全てを否定された気がした。
どんなに努力しても、
酒を飲んじゃあ暴力しか振るわない父親と、頭の悪い男にすぐにもたれかかって生きて行く事しか出来ない母親のせいで、俺の人生は全て台無しにされてしまう、とそこまで思った。
真由美とはその後、ひと月もしない内に別れた。
高校に入ってから、バイトも出来るようになったから、夕方のスーパーのレジとか、牛丼屋とか高校生でもOKの所を探して働いた。
真由美と別れてからは、益々勉強とバイトしかしなくなっていた。
高校3年になり、いよいよ周りも大学受験モードでピリピリし始め、俺も国立大を目指していたから、バイトを半分に減らして、ほぼ勉強に充てた。
そんなある日、家の電話が鳴った。母親の勤める美容室からだった。
「あっ、カズ君?今、お母さんがお店で突然倒れて、救急車で運ばれたの」と。
電話を切ってすぐ、里奈が帰るのを待たずに、置き手紙だけして、救急病院に駆けつけた。
間に合わなかった。
母親は急性心筋梗塞だった。
俺は悲しいとかより
怒りの方が強かった。
何、死んでんだよ、そう思った。
俺はこれから大学行くんだよ。
その為に死に物狂いで勉強して来たのに、何勝手に死んでんだよ、そう思った。
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