とある魔術師の独善

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とある魔術師の独善

 鼻をくすぐる鉄さびの臭いに、リード・タルタニアは羽織ったコートの襟を立てた。 「だから、ここは貴方様が来るような場所ではないと申し上げました」  不機嫌な調子を隠そうともしない執事のディランに、リードは「もちろん、来たくはなかったさ」と、舌打ちで返した。  成人したばかりの若造に言われるまでもなく、ここがどういった場所であるか、リードはよく知っていた。  俗に言う、奴隷市。  表向きには美術品の競売場としているが、会員制の扉を開けた途端、秩序ある世界はなりをひそめる。  競売に掛けられている奴隷は、外界で様々な汚れ仕事に従事しているβ種ではなく、政府によって管理されているはずのΩ種だ。  Ω種といっても、生粋のΩが競売に掛けられる事例はめったにない。  競売の舞台に上がる奴隷のほとんどは、αに性的倒錯を与えるΩの性質をもつだけの複製品ばかりだ。  短命で、生殖能力もない。魔術の力によって生み出された人造人間たち。  違法Ωは、この世のものとは思えないほどの甘美な快楽をαにもたらすためだけに生み出された歴史を持つ。αに対するΩの総数が、あまりにも少なかったためだ。     
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