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俺は黒縁メガネをかけた小太りの中年女、障害者の支援相談員だという卯野 祥子(うの しょうこ)をリビングのソファーに座らせ、車椅子を漕いで茶を運んだ。
茶といっても、こんな身体じゃ何もできないから、ぬるいペットボトルの茶を一本、テーブルの上にドンと置く。
「綺麗に掃除しているんですね」
卯野が無遠慮に部屋中をキョロキョロと見回していった。
「それに、ものすごい眺めだわ!」
ここは、駅前のタワーマンションの21階。
こんな薄曇りの日でも、摩天楼は絶景である。
「なにも、不自由はしていないみたいですね」
「不自由はないよ。ヘルパーの一ノ瀬さんがよくしてくれるから」
卯野はしばらく考え込んでいた。
俺に記憶障害があるものだから、ヘルパーの話もでっち上げだと勘ぐってたのだろう。
だけど、使い勝手よく整頓された室内、冷蔵庫の買い置きの食材に作り置きの料理、とても下半身麻痺の障害者がひとりで出来るもんじゃない。
卯野はどうやら、納得したようだった。
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