15人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
「とにかく俺のことは、放っておいてくれ! アンタ忙しいんだろう?手間がかからないのは好都合なんじゃないのか!?」
「……まぁ、私に貴方を強制的にどうこうする権利はない訳だから、そうおっしゃるのなら、それでもいいけど。でも、月に一回は顔を見に行くから、困ったことがあれば、遠慮なく相談してね」
優しげな口調でそういわれると、何となく卯野に対して後ろめたい気持ちが湧いてくる。
「ああ、分かった。ありがとう、また連絡するよ」
そういって、電話を切った。
葵は、体力を消耗して疲れ切ったのか、真っ白いシーツにくるまって小さな寝息をたてている。
その行為には……下半身の動かない俺と交わるには、葵にとってかなりの負担がかかる。
それでも葵は、幸せそうな微笑みを浮かべて眠っている。
俺も幸せだ。事故の日以来、感じたことのなかった満ち足りた気持ちで胸が一杯になる。
その日から、この地上21階に浮かぶマンションの一室は俺と葵との恋人同士の棲む城、蜜の楼閣となった。
それは、悪戯に波打ち際に造られた砂の城のように
少しの波が打ち寄せれば崩れてしまう、儚い城であることは理解っていたけれども。
最初のコメントを投稿しよう!