第1章

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「ワン」  アゲハさんに返事をするキャロルの体が大きくて、全身を撫でてやると大変だったが、確かに感じるキャロルの鼓動と体温に、僕はまた嬉し涙がこぼれた。 「アゲハさんが面倒を見ていてくれたの?」 「そうだよ。お前が病院に運び込まれた時から少し面倒見ていたけれど、一之宮のばっちゃんが亡くなって、誰も面倒を見る人が居なくなったら私がここで飼うことにしたん だ」 「そっか。アゲハさんありがとう!!」  僕はアゲハさんの目を見てお礼を言った。こんなもんじゃ物足りないくらい、僕は今物凄く嬉しい。  アゲハさんは、僕の顔を見て驚いたように一瞬目を見開いて「おさむさん」と呟くと、顔を背けて「あいよ」と言った。その横顔がどことなく赤いのは、この暖かい陽気のせいかな。 「私は113号室に住んでる。シュウシの部屋は101号室」  そっぽを向いたまま左手で、右から左を指差す。その指を辿れば、説明された通り、113号室には千散。101号室には一之宮と表札が書かれていた。  他の部屋を見てみると、他にも住人が居るようで、まばらに人の名字らしき名前が掲げられているが、部屋の扉の数と数字列は一致しなかった。 「ああ部屋番号は適当だよ」  101号室と113号室の間には1部屋もなく、首を傾げている僕にアゲハさんは言う。 「僕の、部屋?」 「そう。シュウシの部屋。一之宮のじっちゃんとばっちゃんに頼まれていたし、家賃として口座も知っているけれどさ、お前たちが交通事故に遭ったのと、お前が一之宮のばっちゃん達にすら会えずに死別したことをうちのババアも悲しすぎると嘆いてさ、もちろん私も同じことを思っていたけれど……それで不憫に思ったババアがこのアパートを建てるときに101号室、1階の1番左の部屋をシュウシの部屋にしたんだ。中に入れば驚くぞ。頑張ったんだからなぁキャロル?」 「ワン」 「……あり、がとう」  僕はいろいろな人達に迷惑と心配をかけてしまっていたみたいだ。  目を覚ましてしまったことを申し訳なくなって背中を丸めた僕の肩を叩くアゲハさんは、 「いいから部屋に入ってみろよ。ほら鍵」  ポケットから鍵の束を取り出して、その内の1つを握って僕にそのまま手渡してきた。 「この鍵の束……このアパートの合鍵なんだけれど、お前が持ってるんだ」 「え? なんで?」 「今日からお前がこの千散荘の管理人だからな」 「どうして」
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